小衣「もうすぐバレンタイン!」>


小衣「イギリスにいる警視に手作りチョコをプレゼントするんだからー!」
小衣「なのに、なんで失敗しちゃうのよー!説明書通りに作ってるのに、むきーッ」
小衣「これじゃ、バレンタインに間に合うようにイギリスに贈れないじゃない……」
小衣「どうしよう、誰かに訊いた方がいいのかしら」
小衣「でも次子は甘いの苦手だし、平乃は料理できるか分からないし、咲はめんどくさいからヤダって言われそうだし……」
小衣「シャーロックは……」
小衣「……ないわね、うん」
小衣「そもそも誰かに相談したって、一人で作れないってバカにされるに決まってるわ!」
小衣「こうなったら……」
小衣「はッ!居たわ、料理が完璧に出来て口が固そうなのが一人!」
小衣「そうよ!アイツに頼んで作らせればいいのよ! 小衣って頭いいー!流石IQ1300あるだけのことはあるわねー!」



石流「……それで私のところに来たと?」
小衣「そうよ!」
石流「断る」
小衣「なんでよ!」
石流「忙しいからだ」
小衣「こんなに可愛い小衣がこうして頼んでいるんじゃない。ちょっとくらい聞いてくれたってバチは当たらないわよ」
石流「貴様、仕事はどうした」
小衣「今日は午後出勤よ」
石流「……」
小衣「な、なによ」
石流「ここはどこだ」
小衣「は?ホームズ探偵学院の食堂じゃない」
石流「では、お前は何だ」
小衣「G4のリーダー。警察官よ」
石流「…………」
小衣「……なに? ここの職員は、いけ好かない探偵みたいに、トイズを持っていない相手には協力する気がないってわけ?」
石流「そうではない。貴様は、その神津警視とやらに手作りチョコを贈りたいのだろう?」
小衣「そうよ!」
石流「だが、巧くいかないから私に代行させたいという話だったな」
小衣「そ、そうよ。それがどうしたっていうのよ」
石流「自分で上手く作れないなら、デパ地下で高級チョコでも買えばいいだろう。それなのに、自作だと偽ろうとするその性根が気に入らない」
小衣「……っ!?」
小衣「あ……アンタなんかに、小衣の気持ちなんて分からないわよ!」
石流「あぁ、そうだな」
小衣「そこは否定しなさいよ!」
次子「すいませーん、ウチのリーダー回収しに来ました」
小衣「げぇッ、次子!どうしてここに?!」
石流「先程連絡しておいた」
次子「ダメだろー、小衣。仕事中の石流さんに迷惑かけちゃ」
小衣「べ、別に迷惑なんてかけてないわよ!」
次子「あれ?小衣……?」
小衣「な、泣いてなんかいないわよ!うわぁぁぁん!」バタバタ
次子「あーあ、泣きながら走ってったなぁ……」
石流「部外者に校内で泣き叫ばれると迷惑だ。騒ぎにならないうちに早く連れて帰れ」
次子「はは、手厳しいねぇ」
石流「貴様らが甘やかしすぎなだけだ」
次子「いやいや、面目ない」
石流「フン。……六歳差など大した事ではないと、後で言ってやれ」
次子「ははは、そうフォローしとくよ。でもそれ、妙に実感がこもってない?」
石流「そんなことはない」
次子「そういや、会長さんと石流さんもそれくらいだっけ?」
石流「……」
次子「……あれ?違った?」
石流「明智小衣を探しに行かなくていいのか」
次子「あ、そうだった。じゃ、石流さん、小衣の相手してくれてサンキューな」


***

<校舎裏の池の畔>

 小衣「くすん、くすん……」
 小衣「小衣だって、ホントは分かってるわよ……」
 小衣「でも……でも……」
二十里「どうしたのかな、レディ」
 小衣「……あ、変態露出教師」
二十里「そうとも、ボクは美しいボクが大好き!もっと美しいボクを見たまへっ」
 小衣「そこは否定しなさいよ……」
二十里「さぁ、美しいボクのこのハンカチで、その涙を拭くといい」
 小衣「な、なによ……妙に優しいわね」
二十里「ボクは美しい!でも、恋する乙女も美しいからね。ボクは常に美しいものの味方なのさ」
 小衣「なにそれ、意味分かんない」
二十里「ボクでよければ、話をきいてあげるってことさ」
 小衣「……アンタ、授業はどうしたのよ?」
二十里「今日のこの時間帯は空いててね、暇なのさ」
 小衣「ふーん……」
 小衣「べ、別に大したことないけど、どうしても聞きたいっていうんだったら、聞かせてやらないこともないわよ」

二十里「おやおや。ホント、石流君は容赦ないねぇ」
 小衣「なんなのよ、あのムッツリ用務員!」
二十里「でも間違った事は言ってないと思うけど?」
 小衣「うっ……」
二十里「だから泣いていたんでしょ?」
 小衣「う、うるさいわね!」
二十里「恥ずかしがらずに、G4の皆に聞けばいいじゃないか」
 小衣「で、でも……」
二十里「古人曰く、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ってね。それに……」
 小衣「な、なによ」
二十里「誰かを好きな事も、上手くチョコが作れないことも、別に恥ずかしいことじゃないさ」
 小衣「……」
二十里「だけど、見栄を張るのは美しくないね」
 小衣「うっ……」
二十里「小さな嘘をつくとね、その嘘を隠す為にまた嘘をつかなくちゃいけなくなる。そしてそれがどんどん大きくなって、後戻りできなくなっちゃうのさ」
 小衣「いつになく真面目じゃない……」
二十里「そりゃぁ、この学院のティーチャーだもの」
 小衣「なんか調子狂うわね……」
二十里「焦る必要なんかないさ。君には君にしか出来ない事があるんだから」
 小衣「なによ、それ……」
二十里「おや、そろそろチャイムが鳴りそうだ。ボクは次の授業があるからね。アデュー!」
 小衣「ちょ、ちょっと!」
 次子「おー、こんなとこにいた」
 小衣「次子……!」
 次子「探したぞー。午後から仕事なんだから、そろそろ帰るぞ」
 小衣「う、うん」
 小衣「あ、あのね、次子……」
 次子「なに?」
 小衣「チョコの作り方とか、分かる……?」
 次子「んー?難しいのじゃなきゃ、大丈夫だぞー」
 小衣「ホント?」
 次子「私は一人暮らしだから料理は一通りできるけど、あぁ見えて平乃はお菓子系得意だし、咲に頼めば、美味しくて簡単に作れるレシピを見つけてきてくれるだろうしなー」
 小衣「……」
 次子「あのさ、私はあんまり頭良くないから巧く言えないけどさ。私たちは小衣より年上な分、こういう事に関しては経験あるんだからさ、普段みたいにもっと私らを頼ってくれていいんだぞー?」
 小衣「……そういう次子って、誰かに手作りチョコとかあげた事あるの?」
 次子「んー、小学生の頃、仲の良かった近所の男友達にあげたことはあるよ」
 小衣「その子の事、好きだったの?」
 次子「いや、全然。でもクラスの女子で盛り上がってたし、ちょっと作ってみたかったから、スーパーで手作りセットを買ってきて、作ってみたんだよね」
 小衣「そうなんだ」
 次子「うん。あげたら喜んでくれたよ」
 小衣「……小衣、IQ1300あってフツーの学校に行ったことないから、そういうの全然分かんない」
 次子「そっかー。まぁ仕方ないよなー」
 小衣「……次子は、バレンタインにチョコをあげたい人っていないの?」
 次子「んー?バイクや銃をいじったり、G4の皆と一緒にいる方が楽しいからなぁ。彼氏とか欲しいとは思わないなぁ」
 小衣「……全然参考にならないじゃない」
 次子「そうだなー、アハハ」
 小衣「さっさと帰るわよ、次子」
 次子「へーい」
 小衣「……」
 次子「……」
 次子「仕事が終わったら、分からないところ教えてやるからさ」
 小衣「うん。……ありがと」


二十里「おやおや、一件落着かな?」
 石流「そのようだな」
二十里「安心した?」
 石流「別に」
二十里「相変わらず素直じゃないねぇ。泣かした手前、気になってたんでしょ?」
 石流「そういう貴様は、随分と明智小衣に肩入れしているように見えたが」
二十里「そうかい?ボクはいつも美しいものの味方だからね!」バッ
 石流「脱ぐな」
二十里「エー?」
 石流「今回の件はアルセーヌ様には私の方から報告しておく。お前は早く通常業務に戻れ」
二十里「相変わらず君はつれないねぇ」
 石流「無駄口を叩いていないで、さっさと戻れ」スタスタ
二十里「ハイハイ」
二十里「バレンタイン、ねぇ……」
二十里「あ、アルセーヌ様にナイスでビューティフォー!なプレゼントを思いついちゃった」

****

<四日後、ヨコハマ警察>

次子「そうそう、そうやって……結構上手いじゃん」
小衣「ふふん、IQ1300もあるんだから当然よ!」
平乃「料理にIQは関係ないと思いますけど……」
 咲「でもまぁ、初めてにしては上出来じゃん」
平乃「それで、これ、焼いたらイギリスに郵送するんですか?」
小衣「そうよ!」
次子「チョコのカップケーキにしたから、溶けないし日持ちもするしねー」
 咲「まぁ5日もあれば余裕っしょ」
平乃「警視、喜んでくれるといいですね」
小衣「そ、そうね……っ」
 咲「向こうでいっぱいチョコ貰ってたりして」
小衣「……っ?!」
次子「おい、咲」
平乃「そうですよ、咲さん」
 咲「メンゴメンゴ」
次子「後は冷蔵庫で寝かせて、明日焼くかな」
平乃「出動前の待ち時間中にできて良かったですねー」
小衣「多めに作ったから、明日のオヤツにアンタ達にも味見させてあげるわよ」
 咲「ヤッタネ」
平乃「楽しみですねぇ」

 ガチャ

神津「なんだ、皆、業務時間外なのにまだ居たのか」
小衣「警視!! どうして日本に?!」
神津「それが、急に小林と共に一時帰国しろという辞令が出たんだが、さっき戻って上層部に確認したところ、出した覚えがないというんだ」
小衣「え?」
 咲「イミフ」
次子「……まさか、怪盗帝国の仕業?」
平乃「確かに、今まで偽の辞令で警部を遠ざけようとしたことはありましたが……逆に呼び戻すっておかしくありませんか?」
次子「だよなぁ」
 咲「ってことは、小林も学院の方に行ってるのー?」
神津「そうだ。しかしまずいな、もしこれが英国の怪盗の仕業だとしたら……」
 咲「でも、もう今日の飛行機はないしー」
小衣「警視!こ、これから怪盗帝国が予告した現場に出動するところだったんです。折角ですし警視も一緒に出動しましょう!」
神津「む?しかし……」
次子「お、旦那と出動するのは久々で腕がなるなぁ」
平乃「そうですね」
 咲「なんか久々って感じー?」
小衣「け、警視!成長した小衣を見て下さい!」
神津「……ふふっ、そうだな。小衣、お前の指揮を見せてもらおう」
小衣「は、はいっ!」
神津「いくぞ、G4出動だ!」
一同「はいっ!」

*****

<ホームズ探偵学院正門前>

小林「ちょっと変な辞令だったけど……久々に学院に戻ってきたなぁ。皆元気だといいけど」
小林「とりあえずアンリエット会長に挨拶して……」
小林「ん?正面から駆けだしてくるのは……」
小林「あのカラフルな探偵服は、もしや」
シャロ「あああああーー!先生ですー!」
コーデリア「きょ、教官?」
エリー「どう……して……?」
ネロ「小林だぁ!」
小林「みんな……グフッ」
シャロ「嬉しさのあまり、そのままタックルしてしまいましたー」
エリー「ご、ごめんなさい……」
コーデリア「教官!? 大丈夫ですか教官!」
ネロ「相変わらずだらしないなぁ、小林は」
小林「はは、ごめん……。でも皆、なんだか逞しくなって……」
小林「でもそんなに慌てて、どうしたんだい?」
シャロ「怪盗帝国から予告があった美術館に向かうところだったんです!」
ネロ「せっかくだから、小林も一緒にいこうよー」
小林「え?でも、僕は……」
ネロ「アンリエット会長には後で一緒に報告しに行けばいいじゃん」
シャロ「荷物はお爺ちゃんの像のところに置いとけば大丈夫ですー。お爺ちゃんが見ててくれます!」
小林「え?そう……かな……?」
ネロ「小林と一緒に現場にいくのは久々だし、腕がなるよねー」
エリー「はい……」
コーデリア「でも、あの、私たちトイズが……」
シャロ「先生もいますし、何とかなりますよー」
ネロ「そうそう」
エリー「が、頑張ります……」
コーデリア「あ、あの……教官!ふつつかですがご指導宜しくお願いします!」
小林「え?いやその、参ったな……」
小林「僕だけじゃなく皆もトイズがないなんて……どうしよう」
小林「でも、怪盗事件は見過ごせないし……ましてやそれが怪盗帝国なら尚更だし」
小林「……まぁ、なんとかなる……のかな?」
小林「こうなったら……行くぞぉ、君たちぃぃぃ!」
MH「はいっ!」


<了>

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